妄想企画 ジャズレコードに潜む愛すべきスタンプたち (第1回)

WRITER
大塚広子

家でレコードを選んでいると、必ず娘(現在2歳)が邪魔しに来ます。棚に入りきらず、整理しかねて床に進出し、固まりになったレコードの上に登り始め、ドミノ倒しに・・・。最悪のケースが頭をよぎって身震いする。本当にやめてほしい。その時にふと、娘の動きが止まった。「あ、ねこちゃん」。

動物が好きな娘。このレコード帯の猫を気に入ったのか、この絵を描け、とせがみ、もっともっと、とリクエストされる。「本当はレコードを聴きたいのに、なぜ私はスリー・ブラインド・マイスの猫を何度も描いているのか・・・」。腕を上げたいのは選曲なのに、イラストの腕をすっかり上げることになってしまいました。いっそのことスタンプがあったらいいのに。

普通なら素通りしてしまうような小さなイラストやロゴ。大真面目に聴くようなジャズ盤に限って、そんな部分にニヤッとすること、実は結構あります。知っている人だけしか分からない、こんなニッチなスタンプあったらいいな。という、勝手に妄想スタンプ。作品内容も太鼓判の愛すべきレコードをご紹介します。

1970年にスタートした日本ジャズ史の重要レーベル、スリー・ブラインド・マイス。150以上のタイトルをリリースするレーベルならではの、様々なカタログ番号やシリーズがありますが、この猫は1977年に登場したもの。キャット・シリーズという再発盤のロゴで、オリジナル番号に2500番をプラスしたナンバーで発売されています。“再発盤”と言わずに示すロゴ、粋ですね。悔しくも手にしている再発盤も、隠語“キャット・シリーズ”として愛でるのもいいでしょう。

そんな同レーベルの盤で、気になる裏ジャケを発見です。

Tee & Company / Dragon Garden

ジャズマンの似顔絵を配したユーモアあふれるイラストに反して、内容は、フリーフォームなジャズ。特に、日本フリージャズの最重要ギタリスト、高柳昌行の闘争的でアヴァンギャルドなイメージには似ても似つかぬこの描写・・・。でも、ジャズマンは昔も今も、個性が魅力。特徴をおさえたスタンプ的表現がぴったりなんですね。このグループ、ティー・アンド・カンパニーは、レーベル創始者、藤井武氏(通称Mr.Tee)意中の先鋭8人による日本のスーパーグループで、時代的にマイルス・デイヴィスのバンドメンバーからなるV.S.O.Pクインテットのような存在だったようです。実験的かつパーカッシヴな内容で、日本人離れしたリズム感が本当にクール。

今度は、ジャズマンを動物にしてしまったパターン。

宮坂高史+5 / Animals Garden

本作のリーダー、宮坂高史をクマに例え、そのヘビーなドラムを表現する明田川荘之氏のライナーがイイ感じで進みます。「ベードラの雄叫びといい、まるで巨大熊が通った後の如く大地の振動・地割れ、大地をひきずる最低音域から込み上げる重量感・・・。彼の得意とするサンバでは、まさに人食い人種の血祭りの儀式・・・」(!)
どんなに怖いレコードなのかと思いきや、A1「Animals Garden」に針を落とすと、郷愁感あるメロディにどんどん引き込まれていきます。躍動するドラムに心打たれる旋律、風情ある和モードな内容で聴きごたえ十分。エルヴィン・ジョーンズを思わせる日本屈指のパワードラマーの存在を今に伝える貴重なデビュー作です。即興、フリージャズ作品で知られるコジマ録音ALMレーベルですが、ナチュラルテイストな動物キャラに、ほっこり。

最後は

Bobby Humphrey / Dig This!

曲名ごとに、配置された可愛いイラストのスタンプがたまりません。B4「Nubian Lady」の曲名と、このネイティブな雰囲気のネコちゃんロゴは、日本の女性DJ/プロダクション・チームが引用していて、とってもグッときたのを覚えています。音を聴かずともレコードを介して音楽感覚を共有できる、まさにスタンプの理想的な形です。紳士なワンちゃんもいいですね。ハリー・ウィテカー、アルフォンス・ムザーン、ロン・カーターなど豪華客演の1972年録音ブルーノート作品。ストリングスを配した重厚なアレンジで、マイゼル兄弟プロデュース前夜ならではの曲想が楽しめます。

皆さんのレコードにも、そっと潜んでいる愛すべき一部分・・・。LINEのスタンプとして、共有できたら面白そうですね(妄想)。

大塚広子(DJ/音楽ライター/プロデューサー)
ジャズをメインにDJ歴約20年。アナログレコードにこだわったレアグルーヴ、和ジャズの音源発掘から、現代ジャズまで繋ぎ、ワン&オンリーな“JAZZのGROOVE”を起こすDJ。徹底したレコードの音源追求と、繊細かつ大胆なプレイで全国的な現場の支持を得て、ニューヨーク、スペインの招聘、東京JAZZ、2度のFUJI ROCK FESTIVAL、Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN等出演。クラブシーンのみならず老舗ジャズ喫茶やライヴハウスで、評論家やミュージシャンとのコラボレーションを積極的に行い、柔軟なセンスで音楽の楽しみ方を提示している。DJ活動の他、メディアでの執筆、選曲監修、伊勢丹新宿店など企業音楽プロデュースや、新世代ミュージシャンを取り上げた自身のレーベルKey of LIfe+を主宰。プロデュース・ユニット(RM jazz legacy)のディレクション、リリース活動なども行う。
HP: http://djotsuka.com

世界中のレコードを、その手の中に

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