バックグラウンド・ザ・ヴァイナル 01

WRITER
SWING-O

“Brother,Brother,Brother” by The Isley Brothers 1972

初めまして、SOUL PIANIST/SOUL PRODUCERであり、SOUL DJでもあるわたくしSWING-Oによる「バックグラウンド・ザ・ヴァイナル」第一回になります。このコラムでは基本レア盤などを素材にする予定はありません。どちらかといえば「定番」とされている作品を、より深く楽しむための、その作品が生まれた「背景」にスポットを当てつつ紹介していこうと思っております。(この挨拶以降は一人称は「俺」でいきますw)

さて第一回はThe Isley Brothers(以下アイズレー)の第二次黄金期前夜のこの作品紹介でいこうと思います。この盤はDJがみんな大好きA-4「Work To Do」が収録されていることで有名ですね。ファンキーなA-5「Pop That Thing」はのちのアイズレーファンクの雛形のような曲でもあり、かつ当時スマッシュヒット(全米Hot100で24位)したので、そこらへんにスポットがあたりがちなんですが、俺が注目したいのはこのアルバムにCarole Kingのカバーが3曲入っているという点です。

A-1 「Brother, Brother」
A-3 「Sweet Seasons」 (以上2曲は from 『Music』1971)
B-1 「It’s Too Late」 (from 『Tapestry』 1971)

特にA-1はBrotherを一個足しつつ、アルバムタイトルにしちゃうほどの気持ちの入れ込みようなわけですが、このCarole Kingのオリジナルがどういう曲かを説明しておきますと、Marvin Gaye 「What’s Going On」(1971年1月)に痛く感銘を受けた彼女からのアンサーソングだと言われてます。この曲が収録されたアルバム『Music』は1971年12月に発売されました。それにまた感銘を受けたのがアイズレーということで、このアルバムは1972年5月に発売されました。

つまり、1年半に満たない期間に白人黒人の間で二度も音のキャッチボールが行われたということに俺はキュンとしちゃうんですよね。それも黒人代表な人たちと白人代表な人たちのキャッチボールですよ。今で言えば、AdeleとDrakeがキャッチボールしてる感じ…?でしょうかね、あ、彼らならやりかねないですけど……

視点をググッと広げると、この頃はベトナム戦争が泥沼化の様相と共に、1970年頃まで激化の一途だった公民権運動も頭打ちな状況になり、アメリカ国民が疲れきっていた頃でもあります。そんな状況とリンクして白人黒人問わず自らの思いを楽曲に書きおろす、シンガーソングライターなスタイルが広まってきた、そんな時代です。決して黒人白人の対立は無くなってはいなかったんですが、「音楽」を通しての交流というのが(音楽フェスしかり)積極的に行われるようになった。その象徴的なキャッチボールじゃないかなぁと思うんです。

アイズレーが白人曲を積極的に取り上げるのはこれが最初ではありません。そもそもこの一つ前のアルバムが白人曲ばかりをカバーしたアルバム(『Givin It Back』1971年)でした。そこからStephen Stills「Love The One You’re With」のカバーがスマッシュヒット(全米Hot100で18位)となり、味をしめたんでしょうか(笑)? アメリカでレコード(CD)が売れるということは基本、白人も買ってくれることを意味します。ひょっとしたらレコードを買ってもらうための「企画」として始めた「白人曲カバー」だったのかもしれません。

だとしてもアイズレーが素晴らしいのは、そのカバーが完全に彼らの曲になっているということです。他の有名なカバーを挙げると、

「Summer Breeze」1973年(Original : Seals & Crofts 1972年)
「Don’t Let Me Be Lonely Tonight」1973年(Original : James Taylor 1972年)
などはオリジナル越えと言っていい素晴らしいカバーです。この2曲も「Love The One You’re With」も俺自身ライブで時々演奏しますが、その際の参考音源は大抵アイズレーです。なんならばアイズレーオリジナルと勘違いしてる人も多いかもしれませんね。

「It’s Too Late」 by The Isley Brothers 1972

では最後にこのアルバムに戻りまして、B-1「It’s Too Late」に針を落としましょう。この、Carole Kingの印象的なピアノリフを一切やらずに、スローファンクな形で始まります。そしてChris Jasperのあのアルペジオなピアノと共に官能的にRonald Isleyがサビを歌い出す……ああ気持ちいい! ずっと聴いてたい!と思ったらなんと10分31秒もあるんです! Ernie Isleyのギター、あの「Summer Breeze」を彷彿とさせる音色でギターソロが随所に挟まれる……。いやほんと気持ちいいカバーです。その後には次作収録の「Highway Of My Life」の原型ともいうべきバラード「Love Put Me On The Corner」が待っています。

このアルバムの次に『3+3』1973年がリリースされ、ポップチャート的にも大爆発するわけですが、そんな大爆発大ブレイク前夜の作品というのは試行錯誤の跡がいろいろ見られて、逆に味わい深かったりするもんです。知っている、持っているアルバムでも、そうした前景後景を想像しながら聴くとさらに味わい深くなります、そんな「バックグラウンド・ザ・ヴァイナル」でした。

SWING-O
SOUL PIANIST / SOUL PRODUCER / SOUL DJ。1969年加古川生まれ。黒い現場にこの男あり。SOUL、HIP HOP、CLUB JAZZ、BLUESを縦横無尽に横断するそのスタイルで、日本に確かな痕跡を残し続けるピアニスト、プロデューサー。これまでに関わったアルバムは150枚以上。今年30周年を迎えるファンクバンドFLYING KIDSのメンバーになったことも発表されたばかり。例えば2016~18年に絡んでいるアーティストは堂本剛、Rhymester、AKLO、Doberman Infinity、Crystal Kay、加藤ミリヤ、元ちとせ、近藤房之助などなど。積極的にイベントも開催、恵比寿BATICAにて今年で10年目になるMY FAVORITE SOULを開催中と多方面でSOULな音楽発信を続けている。
http://swing-o.info/

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